猫カフェ店舗のデザイン
一目で見渡せる空間を作りたかった
猫カフェでは、猫と人が同じ空間で過ごします。猫は人と相性が良い動物ですが、まったく同じというわけではありません。ですから、猫カフェ店舗には、人も猫も快適に過ごせるような工夫が必要です。猫カフェを経営されている八木さんに、猫カフェ店舗での工夫についてうかがいました。
八木さんは、兵庫県姫路市にある「catcafe ねこびやか黒猫cm」のオーナーです。神戸元町の猫カフェNyannyの創業スタッフでもあり、現在は姫路市で猫カフェ2店舗を運営されています。
間取りの広さは健康管理できる猫の数にあわせて
Q:内装・間取りについて質問させてください。
猫たちがのびのびとしていますね。今、何匹いるんですか?
8匹です。全員、黒猫なので見分けやすいように名前にちなんだ色の襟をつけています。
なるほど、襟の色を見れば見分けられるのですね。8匹だと、これぐらいが最適な広さなんですか?
そうですね、猫一匹あたり2畳以上のスペースが必要といわれています。でも、広さだけで猫たちの数を調整しているわけではないんですよ。猫が多すぎたり部屋が広すぎると、人間スタッフの目が行き届かなくなってしまいます。できるだけ、猫たちが何処で何をしているか見える空間にしたかったんです。広さは12.5坪ぐらいです。
なるほど、猫を見守れる広さを考えると12.5坪なんですね。
猫は体調が悪くても、それを隠そうとします。食事の食べ方や普段の行動を見て、人間が先に気づいてあげないといけません。そう考えていくと、これぐらいの広さがベストかなと思っています。
猫たちの体調管理を優先されているのですね。明るくて落ち着いた雰囲気ですが、ご自分で内装のイメージを作られたのですか?
はい。ナチュラルな雰囲気が好きで、自分のイメージを伝えて形にしていただきました。自宅のようにくつろげる空間になればいいなと。
壁のパネルが目を引きます。
ファブリックパネルですね、わたしが作ったんですよ。以前、義兄のお店でファブリックパネルを作る仕事をしてたんです。
こんな大きなパネルを手作りされたんですか?すごい!
他にも、このケージや木製ロッカーは手作りです。ブログに作ったときの記事がのこってます。
オープン前に、ご自分で作られたんですね。よくDIYされるのですか?
アイデアを形にするのが好きなんです。このロッカーは階段も兼ねていて、猫達が壁のステップへ移動しやすいように作りました。ケージも、調子の悪い子がいたら休ませられるよう大きめのサイズにして、上下移動ができるようにしています。
すごいですね、すべて手作りだとは思いませんでした。たしかに、このケージやロッカーの形状は既製品では難しそうです。
この壁ステップの間隔は意外と広いですよね?
少し移動しづらいかな?程度が良いと考えています。猫は探検するのが好きですし、運動不足の解消にもつながります。室内飼育では、どう運動してもらうかも大事なポイントです。
壁ステップ兼ダイエットマシーンなんだ(笑)
(笑)
猫が快適・人も快適を目指して
Q:猫のために工夫した場所を教えてください。
さきほどのケージやステップもそうですが、入り口の引き戸やトイレスペース、猫用トンネルがそうですね。
この二重になっている引き戸ですよね。猫が外に飛び出さないように?
それもありますが、工夫は横の格子がないことなんですよ。
たしかに、水平方向に格子がありません。
はい、横向きの格子がある内扉だと、猫たちが登っちゃうんですよ。
なるほど!この形だと、猫が登れないんだ!
この二重扉はお店の入り口ですから扉越しにお客さまとお話することがよくあります。好奇心旺盛な子は人が来ると扉を登っちゃうんですよ。
これは気付きませんでした。
手が引き戸の間に挟まると大変ですから、最初から登れないよう横の格子はつけていません。
怪我の防止になっているんですね。トイレスペースにも工夫があるとのことですが見当たりません。別の部屋に設置してあるのでしょうか?
実はココにあります(カウンター下を指して)。
本当だ。まったく臭いがしないので、気付きませんでした。
猫たちがトイレをしたら、すぐ処理できるようにカウンター下に設置しています。別の部屋だとトイレをしたことに気付かないことがあるので。それを放置すると臭いのもとになります。かといって頻繁に別の部屋で掃除をしていると、お客様のいるフロアに目が届かなくなっても困りますし。
なるほど、臭いがないのはトイレをすぐに掃除しているからなんですね。トイレは別の部屋に作るのが臭い対策としてベターと考えていたので驚きました。
足下にトイレがあることで、誰かがトイレをすれば必ず気付きます。すぐに掃除をすることができますし、誰がトイレをしたのかも判別できます。これが重要なんです。
どの猫がトイレをしたのかが重要なんですか?
はい、多頭飼いの場合は重要です。別の部屋にトイレがあると、後でまとめて掃除することが多くなります。そうすると、誰の調子が悪いのか判別が難しくなるんです。誰か分からず様子を見ているうちに、症状が悪化することもありますから、できるだけ早く発見するための工夫です。
足下にあることで、誰がトイレをしたのかが分かる。それが、毎日の健康チェックになるわけですね。
トイレスペースは床にも工夫があります。
この部屋はフローリングなのに、そこだけコルクになっていますね。
コルク風のクッションフロアになっています。表面は掃除がしやすいように防水加工されているものを選びました。
これは汚れる場所だからですか?
そうです。トイレボックスの外で粗相することは少ないですが、トイレの猫砂が飛び散ったり、調子の悪い子が吐いちゃうことがあるので。衛生上の観点から掃除・消毒をしやすいようにしています。
自宅で猫を飼うなら、ぜひ取り入れてみたい工夫ですね。気になっていたんですが、この猫トンネルはトイレへの道なんですか?
トイレ専用として作ったものではないんですが、みんなよく使っていますね。カウンターにいるお客さんの足下は猫の通り道。だったら面白いかなと思いまして。
想像しただけで猫好きにはたまらないシチュエーションですね。カウンターの外から見ると、トンネルの向こう側に何があるのか気になります。まさか、トイレだったとは(笑)
共存スペースの考え方:人間と猫を区別する
Q:部屋を猫用にDIYする人が増えています。アドバイスはありますか?
まず、人間と猫を区別することだと思います。
と、いいますと??
私にとって猫は家族の一員で、家族と同じぐらい大切な存在です。同時に、猫は人間ではありません。人間とは違う習性をもっています。ですから、猫の習性に合わせた環境も作ってあげないといけません。
違う動物ですしね。具体的に言うと、どのような工夫が必要でしょうか?
例えば、フードの保管場所などです。フードや人間用のお菓子をしまっている棚の扉を猫が開けることがありますよね。こういう場合は猫を叱ったりせずに、フードの保管場所を猫が行けない場所に移してしまってください。部屋に余裕がなければ、扉が開かないような工夫をしておくといいですね。
「また、盗み食いして!」というシーンは、よくありそうです。
イタズラされるのもカワイイのですけどね(笑) でも、それが原因で猫を叱っても、猫は何について怒られているのか理解できません。ですから、ただ怒鳴っている怖い人としか見てもらえないんですよ。
確かに、言い聞かせても分かってもらえそうにありません。
問題があるなら人間が工夫して防ぐのがベストです。そうすることで、猫との良い関係を保てると思います。
トイレスペースの工夫も家庭で応用できそうですね。
そうですね。すぐにトイレ処理できるよう消毒用品スペースを作ったり、食事場所やトイレ周りをクッションフロアにしたりビニールシートを敷いておくと便利です。
運動不足についてはどうですか?キャットタワーを買われる方が多いように思います。
爪研ぎも兼ねていますので、あったほうがいいと思います。高いところに居心地のいい場所を作ってあげてください。移動が多くなるので運動不足解消につながりますよ。
キャットタワーから高い場所への移動ルートが多いのは、そういう理由があるのですね。
行き止まりがないように作っていますので、夜になると追いかけっこしてる子たちもいますよ。
あと、部屋の工夫ではないですが、多頭飼育だと運動量が増えてストレス対策にもなります。
多頭飼いしている人から「夜は大運動会になる」と聞いたことがあります。
このお店でもそうなんですよ。人間スタッフが帰ったあと、みんなが走り回っているようです。朝来ると、いろいろ散らかってたり(笑)
それは、賑やかそう(笑)
猫同士の相性もありますが、環境が許すなら多頭飼いを検討してみてください。
八木さんは、この姫路市駅前の店舗以外にも猫カフェを運営されているとか。
ねこびやか88番地という店舗名で会員専用の猫カフェを運営しています。隠れ家的なカフェでそちらでは、猫の里親探し活動もしています。
里親捜しというと、いわゆる野良猫や地域猫の保護ですか?
基本的には動物愛護センターに持ち込まれた猫たちの里親探しをしています。特に、春と秋は持ち込まれる頭数が多くて放っておくと殺処分になってしまうので……。そういった子たちを助けたくて、譲渡希望の方と猫たちのお見合の場所としてもつかっています。
ここにいる黒猫たちのほとんどは、姫路市の動物管理センターから引き取った子たちです。
動物管理センターでは黒猫が多いのですか?
黒猫が多いというわけではありません。たまたま、黒猫の4兄弟が保護されていたことがあり、その子たちの居場所を作ってあげられないかと考えました。それが、黒猫カフェのはじまりです。オープン当初は黒猫カフェではなかったんですよ。
最初から黒猫カフェではなかったんですね。
最初はキジトラの多い普通の猫カフェでした。その頃にいた猫たちは別店舗のねこびやか88番地へ引っ越したり、引退して私の自宅で暮らしています。
里親探しもされているとのことですが、譲渡数は年間でどれぐらいになるのでしょう。差し支えなければ教えてください
その年によりますが40~60頭前後です。
すごい数ですね。想像していたより多くて驚きました。
もちろん、私一人でやっているわけではありません。子猫を育てるボランティアさん、フードの差し入れや募金でバックアップしてくれるお客さん、多くの方に助けていただいています。
あちらの店舗では、子猫たちの育成やお見合いの工夫をお見せできると思いますので、ぜひ見に来てください。
ぜひ、うかがいます。 本日は、いろいろと教えていただいて、ありがとうございました。
次回、ねこびやか88番地へおじゃまします。引き続き、猫カフェ店舗の工夫や、保護猫活動についてお話をうかがいます。